SSブログ

第一章 『ウィズウィズの戦士たち』 [企画]

dqp01.gif

    こっちへおいでよ…

「おいでおいでってわたしたちをさそってるよ。
でも声しか聞こえないね……」
細い触手が戦士のマントをギュっと握り締める。
「………」
戦士は相変わらずの無口だ。閉ざされた口は何もモノを言わない。
この人は何も喋らないのに立派な戦士様に
なれるなんてなんてステキなんだ!…と触手の主は思った。
この触手の主はいわゆるホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムである。
しかし、低級モンスターには珍しく、
人間の言葉を理解し扱うことができるのだ。
「いつか人間になるのが私の夢なんです。」
その夢の為に人間の言葉を覚えたというのだから脱帽ものである。
「おいでおいで」という呼びかけ通りに
古谷の底を歩いていくふたり。
やがて、意味深長な宝箱のある部屋に辿りついた。
パカッ
不思議なことに宝箱はひとりでにその口を開いた。
その中から、羽の生えたひと組の靴が姿を現す。

dqp01.jpg

「さぁ、僕を履いて、空を飛ぶんだ」
頭の中に直接響いてくるような呼びかけ。
「空を飛んでいった先には楽しい玩具がたくさんあるんだ」
フン…
戦士は軽く溜息をついて、その靴を握った。
「ぁ…、ここでは履かない方が――」
彼女の制止は間に合わず、靴を履いて飛び上がった戦士は
天井に頭をぶつけ、しばし気を失うこととなる。
 
    トンッ!

白髪のロングヘアーを毛先で結えた魔法使いは
愛用の箒の柄を床に打ち付けた。
「これより、賢者様からそなた達に話がある。心して聞くように」
戦士達は一斉に身を低くし、頭を下げる。
「皆の者、楽にして良いですよ。
 最近、子供たちがいなくなるという噂は
 貴方達も聞いているでしょう。
 …それも可愛らしい女の子や男の娘ばかり。
 パンヤ島の賢者として、もはや放っておく訳にはいきません。
 事の真意を確かめ、この私に報告しなさい。
 行け、我が戦士達よ!」


   ムクリ・・・

戦士は目を覚ます。
頭に強い衝撃を受け、そのまま気を失ったようだ。
となると体は地面に強く叩きつけられたはずだが、
どこにも怪我はなかった。
「お目覚めですね!」
頭上からふよふよと降りてくる影がひとつ。
数刻前、仲間になりたい!と半ば強引に
同行することになったホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムだ。
どうやら、見張りをしていてくれたらしい。
「……!!」
降りてきた彼女を見ると体中傷だらけだった。
「ああ、これですか」
その驚きの視線にクスっと笑いながら
「戦士様のクッションになったのです。
 とっさのことで体が勝手に動いただけですから
 気になさらないでくださいね。
 戦士様、意外と軽かったですし」
と健気に答えるのである。
その笑顔を見た戦士は、心を打たれるとともに
自分に与えられた指名を果たさなければと決意した。
しかし何故、可愛らしい女の子や男の…
はて、“男の娘”とは何なのだろうか?
どうやら、単なる男の子ではないらしいが…

   ふるふる!

戦士は首を振り、気を正す。
今考えるべきは、この靴と事件の因果関係。
ひとまず、この井戸から外に出なければ!
戦士は傷だらけのホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムを
片腕で抱き、古谷の底を後にするのであった。


角度の浅い光が目に差し込み、朝露の香りがした。
この谷底に入ったのは夜更けだったが
いつの間にか朝を迎えていたらしい。
羽の生えた靴も気になったが、
ホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムの怪我も気になり、目をやった。
その視線に気が付いた彼女は
「いきましょう!」と力強く答えた。
戦士は一瞬と惑ったがその覚悟を酌んで、
コクリと頷いて、再び靴を履くのだった。


靴で飛んだ先は、陸路では辿りつけない
とある塔の頂上であった。
怪しい…と皆、口を揃えていたが
確かめる術がなかった。
そんな塔の中を足早に下へ下へ降る
戦士とホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムの奇妙なペア。
襲い掛かる魔物とイチイチ対峙していては
この先に待っているであろう主犯格と戦う際に
力負けしてしまう可能性がある。
そして何より、
片腕に抱くホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムのことが心配だった。
先ほど出会ったばかりなのに、ずっと以前から
一緒に居たような感覚を戦士は覚えていた。

「お、おい……」
か細い弱りきった声がした。
地下へと降りる階段手前の柱の影に
傷だらけになった同僚の戦士が座り込んでいた。
「私はもうだめだ……」
男の前に腰をおろそうとした戦士を手の平で制し、男は続けた。
「いいかよく聞け……。
 世界のどこかで地獄の帝王が復活しつつあるらしい。
 しかし予言では帝王を滅ぼす勇者も育ちつつあるらしいのだ。
 勇者がまだ力をつけぬ子供のうちに見つけ出し、
 闇に葬るつもりなのだろう。
 …どうして可愛い子ばかり狙うのかは分からぬが、
 そういう血筋なのかもしれんな。
 たのむ! 子供たちを守ってくれ……!」
戦士は深く頷き、その場を後にした。
この先に同僚に深手を負わした敵が居る。
気を引き締めなければ、勝てぬ相手だ。

「おや…? 本日もう2度目ですか…」
神官のような姿をした見たこともない魔物は
戦士を見下し、溜息をついた。
「名も無い王宮の戦士などに用はありません。
 …やっておしまいなさい、大目玉」

   キィィィィ!!!

dqp02.gif

爆発的な加速で突進してくる魔物。

勝負は一瞬だった。
真っ二つになった魔物が床に落ちる。
「ほう…」
主犯らしき魔物が戦士へ歩み始める。
「命知らずなやつめ、そんなに死にたければ
 願いを叶えてやろう。」

戦いは熾烈を極めた。
手負いのホ/イ/ミ/ス/ラ/イ/ムをしつこく物理攻撃で
攻めてくるものだから、戦士も庇うのに必死になった。
辛勝という言葉が当てはまるだろうか。
ふたりはボロボロになりながら、どうにか勝利したのだった。

攫われた子供達を送り届け、
城に戻った戦士は賢者に謁見する。
「よくぞ戻りました。この度の貴方の働き真に見事でした。
 貴方のような家来を持てて私はとても誇りに思います。
 そうですわ褒美を取らせましょう!
 何か望みはありませんか? 何でも言いなさい」
戦士は、賢者への無礼を承知で、
まだ子供である勇者を見つけ、守りたいと賢者に懇願した。
「…わかりました。それが貴方の望みなら止めはしません。
 これは私からの餞別です! 受け取ってください!」

dqp03.gif

こうして戦士は
この地のどこかにいる勇者を求めて旅に出たのでした……。


第一章 『ウィズウィズの戦士たち』 完
 
nice!(8)  コメント(2) 
共通テーマ:スカッとゴルフ パンヤ

nice! 8

コメント 2

ぱーるぅ

普通に面白かったし\(^o^)/ww
今後の展開に期待してますね(ん)


後ホ/イ/ミに猫耳っぽいものが生えてるのは気のせいですかそうですk・・・
by ぱーるぅ (2010-12-06 11:00) 

TomRodica

ほちゃさん、リンファさん、もけろーさん
だーとさん、ぱーるぅさん、にょぞみさん
アーニマさん、ぱるぴさん
ご訪問&ないぽ感謝(o`・ω・)ゞデシ!!

▼ぱーるぅさん
第一章は最後のオチへの伏線です。
それ以外は適当です(マテ
猫耳っぽいの生えてましたか?!
これはうっかりうっかり!!
 
by TomRodica (2010-12-09 22:11) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。